【地下街】なんとなく郷愁をさそう秋風が吹く今日このごろ。ちょっと甘酸っぱい（？）昔話です。

下の写真、ピンとくる方もいるかもしれませんが、大阪は梅田の地下街、

通称「ウメチカ」です。

最近はそうでもないですが、20年くらい前までは、梅田の繁華街の中心は
この地下街で、梅田でショッピングと言えば、ウメチカ、食事と言えば、ウメチカ、
だったのです。ただ1960年前半から長期にわたって開発を続けたため、網の目のように
四方八方にひろがり、ほとんど迷路状態となっています。
そしてこの"迷路"が避けて通れないから困りものなのです。

時はさかのぼって、私がまだ初々しい、中学一年生の頃の話。
色気づきはじめた中一坊主どもに、ある噂が広がります。

確かな情報筋によると、

3組の吉田君が先日、人生初のガールフレンド、恵美ちゃんとの初デートに当然のごとく
ウメチカに向かったとのことです。二人仲良く喫茶店でランチを済ませた後、さあメインの
映画鑑賞です。ところが、下見をしていなかったおおざっぱな吉田君、お目当ての
映画館への道順がわからない。でもまさか彼女に「わからない」、なんて口が裂けても言えない。
そこで、たいして鋭くもない勘を頼りにウメチカをさまよいはじめたのです。
20分たっても30分経っても一向に到着せず、途中、恵美ちゃんが「こっちの方じゃない？」とか
「この道知ってる」とか助け舟を出そうとしてるのに、鼻たれ坊主にも守るべき男のプライドがあり、
頑なにイニシアティブを放そうとせず、更に迷路の奥へ奥へと深みにはまっていったのです。
刻一刻近づく上映開始時間に、ついに業を煮やした恵美ちゃんが、有無を言わさず先頭に立ち、
大人な態度で周りの人に道をくり返し尋ね、ついに映画館までたどり着いたのです。
しかし、映画はすでに始まっており、二人とも気落ちしたまま、すでに筋がわからなくなった映画
を仕方なく観たのでした。
更に悲惨だったのは、帰りで、完全に気まずくなった二人はほとんど会話することもなく、目もあわさず
早くこのデートが終わることのみを願うばかりだった、ということでした。

この話は、中一坊主どもを震撼させました。「ひえー、まずい。俺もウメチカぜんぜん知らへんぞ」。
一様に考えることは皆一緒で、「あかん、覚えなあかん。ウメチカの端から端まで頭にいれなあかん」
その日を境に悲壮感に満ちた中一坊主たちが、次々とウメチカに通ったのです。
私だって、いつもお母ちゃんやお姉ちゃんにひっついて周ってただけで、未来のガールフレンドを
あの迷路の中をエスコートする自信はこれっぽっちもありません。
まだ見ぬ彼女の信頼を得るため、ことあるごとに梅田に行っては地下街をうろついていました。
ただ、その努力が報われるのはまだずっと先になってのことでしたが。